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ジョギングの風景

 老人が歩いている。NHKラジオを聴きながら老人が歩いている。かと思えば短歌を詠いながら別の老人が歩いている。
 犬の散歩が多い。道幅一杯に異様に長いリードを張らせる飼い主と犬を見ていると、急にムシャクシャしてゴールテープの要領で切ってやりたくなる。車は走らない河川敷。何のために走るのか、たとえフルマラソンを完走したとしたらどうなるのか?
誰かと感動を分かち合うこともない。ただ走るだけ。これが人を裏切り続けた結果だ。
 老夫婦の散策、異様に速いランナー、犬の散歩、どこかの学生サークル。多種多彩。
 天気は曇っていて最適。晴れたら早朝でも暑さが厳しい。晴れた人間は眩しいし、暑苦しいし、近寄りがたい。曇った男はただ黙々と走るだけだ。
 30分でふらふらになってくる。あと少しもう少しだけ、立ち止まらずに走れと自分に命令する。滅入る調子で足下を見るとセミの死骸を踏みつけてしまっていた。


 走り終えると急いで着替えて車で会社に向かう。なぜ働くか、分からない。
 雑用をこなす、真剣なふりをし続けて疲れる。ふと事務の娘にお菓子を上げると喜ばれる。なるほど、女性の笑顔は男の人生の光源になりうる。そんなことを思った素振りも見せずに外回り。
本当は世の中はもっと単純なはずなのだ。

セックスしたいならソープに行ってるよ。単純にやりたくないから行かないんだ。
ビールなんて不味いから単純な麦茶でいい。
コンビニで単純な焼きそば買って喰らってりゃいい。
 
 踏みつけてパリパリと音をたててバラバラになってしまったセミの死骸。
 死ぬと止まってしまう。だから単純に走らざるを得ない。