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モグラのような夏

 中学1年くらいまでか、あの起きた時の晴れやかな爽快感を味わっていたのは。すべてがリセットされてこの日一日に打ち込もうという気力が漲った朝。

もうここのところ15年以上はそんな朝を味わっていない。中1までの寝起きに味わっていたのが地下から地上へ出るほどの開放感だとしたら、今はせいぜいが地下5階から地下4階によじ登ったほどの土竜(モグラ)のような感覚。

 

 たかだか年収400万もなく、年間休日も二ケタ。人に言える趣味はジョギング。

 

 朝、いつもの公園で歩いていると、五十歳くらいだろうか、以前にも話をしたことがある名前も知らない知的障碍者と思しき男性が声を掛けてくる。「おはようございます!いいてんきですね!」。「いい天気ですね、今日はお仕事は?」「きょうはやすみであすはしごとです。明日朝5時半に起きていつものバス停に行って送ってもらうんです。『〇〇交通をご利用いただきありがとうございます…(この後、永延とバスの運転手の物まね)』」「…おじょうずですね」「今日は〇〇さんが朝番で〇△さんと同じシフトなんです」

車掌の物まねや、相手に伝わらぬわけのわからぬ固有名詞を熱心に語るのは知的障碍者にありがちな性質であるが、そんな内容よりもとにかく楽し気に話をしている様が、いい。明るい男性である。

熱中症にはきをつけなければなりませんよ。」「そうですね水を飲んで休むことが大切ですね」

他愛のない話をするだけであるが、何を隠そう私も誰かと話をしたいのである。

疲れ切っている。

だれて下着売買掲示板を眺めていると昨日下着を買った女が私の評価メールを引用している。「評価してください」という奇妙なメールがきたので「かわいい」「丁寧」などとさんざん褒めて返信したら、なぜか許可なく(匿名に加工してあるが)画像引用して掲示板に貼られて女の宣伝文句のようにされている。他の男に寄ってきてもらおうという魂胆なのだろう。自己顕示欲が強い売り子だ。何よりも私以外に買った男の評価メールも画像引用されており、それを視ると不潔な気分になる。自分以外にあの女から買った男がいる事実を直視したくない。

事実、商売女は愛して客を取るわけではない。老人でも乞食でも不具者でも、美男でも誰でもいいのだ。私はこの平等性が気に食わないのである。私は確かに、昨日女を褒めた。しかしそれが本心かと問われれば窮する。私は所詮売り子には求愛などしない。ただ、女の自尊心を満たしたかった。それは私が唯一の交際経験において付き合った女を「自尊心を満たす女」にできなかった悔恨からくるものなのかもしれない。

これで仮に女が自惚れてあらゆる男に下着を売り続けて、ある日悪い男に強姦でもされて事件に巻き込まれてしまうとするならば、私も警察に取り調べを受けるであろう。

「顕示欲に翻弄される女」を作り上げた罪意識。たかがパンツを買うだけでも自分の意識の中には奇怪な精神的事件が起きてしまう。

明日の楽しみもなく、事件ばかりが起きてこの人生は終わるのだろうか。